絶滅が危惧されているカグラコウモリ:その生態と特徴

カグラコウモリをご存知ですか?お世辞にもあまり可愛いとは言えない顔をしていますが、そのファニーな不格好さに何故か愛嬌を感じてしまう不思議なコウモリです。

面白い顔のカグラコウモリ

カグラコウモリの特徴

カグラコウモリは翼手目カグラコウモリ科に属するコウモリの仲間です。前腕長6.5~7.2cm、頭胴長6.8~8.9cm、尾長4~5.2cm、体重20~32gほどの大きさです。体毛が長く体上面は黄褐色、体下面は濃いセピア色をしています。

カグラコウモリの最大の特徴と言えばその顔にあります。鼻葉と呼ばれる鼻の部分が前・中・後の3葉からなってひだ状に広がっており、数あるコウモリの中でもお世辞にも可愛いとは言いがたい顔をしています。ただその鼻葉が神楽の面に似ているということで、カグラコウモリという神聖な和名がつきました。

カグラコウモリの生態

カグラコウモリは熱帯系で、日本においては八重山諸島(石垣島、西表島、与那国島、波照間島)に分布し、日本国内に生息する唯一のカグラコウモリ科のコウモリです。長い間固有種だと考えられていましたが、近年タイにも生息することがわかりました。これはタイ南部のマレー半島基部と八重山諸島とが地続きだったことを示す貴重な動物種であり、生物学的にいういわゆる遺存種にあたります。

カグラコウモリはどんなものを食べるの?

カグラコウモリの好物

カグラコウモリは、昼間は洞窟に生息し2000頭近くの大群を作ることもあります。植生は昆虫食で、大型の甲虫、蛾、ゴキブリなどを好み、一晩に体重の1/3にあたる量を狩ります。

カグラコウモリの子育て

カグラコウモリは洞窟に生息していますが、普段生活する洞窟と出産・哺育のための洞窟は別にあります。哺育のための洞窟ではメス同士が集まってコロニーを作り、その後もそこで育児をしているのではないかと考えられています。哺育のための洞窟は、付近に原生林が生い茂りエサが豊富にある場所が選ばれ、子育て中はすぐに捕食できるようになっています。

カグラコウモリの社会性は非常に高度で、母親が捕食に行っている間、哺育のための洞窟には見張りがたてられます。侵入者を確認すると見張り役が「チチチチ…」と鳴き、ただちに母親コウモリが洞窟に戻ってきます。産後1週間は特に母親コウモリの気が立っており、人間が子コウモリに触ろうとすると母親コウモリは人間に体当たりする姿を見せます。さらに人間が辺りをうろつこうものなら、デリケートな母親コウモリは違う洞窟に移動してしまいます。

人間が原因で絶滅が危惧されている

繊細なコウモリたち

カグラコウモリは絶滅危惧種に指定されており、生息地が限られている非常に珍しいコウモリでもあります。そのためカグラコウモリの洞窟を訪ねるツアーが組まれたりするなどして観光客が洞窟に押し寄せてしまうことが問題になっています。

カグラコウモリはとても繊細なので、出産を間近に控えたコウモリが出産しなくなったり、人間に驚いた子コウモリが落ちて踏まれてしまったり、そもそも洞窟からコウモリが消えてしまうケースもあるそうです。コウモリはそのほとんどの種が一度の出産で一頭しか子供を産まない少産動物であるため、一度その存在を脅かされるとあっというまに淘汰されてしまうほど繊細な生き物でもあるのです。

環境の変化によるコウモリの減少

島の開発や整備事業などによって哺育洞窟近くの森林が減少し、カグラコウモリの哺育に大きな影響を与えています。洞窟付近のささいな環境の変化によってさえも多くのコロニーが消失し、以後回復した例はないとされています。

まとめ

カグラコウモリについてまとめてみました。
とても貴重で面白い種であるにも関わらず、カグラコウモリは十分に保護されていないというのが実情です。

トキのように数頭になってから慌てて対策をとるのではなく、現在の段階から絶滅回避に向けた保護策が必要です。また私たち一人ひとりが興味本位でカグラコウモリの生態を脅かさないようにする意識も欠かすべきではないでしょう。