ハロウィンなどでも身近なコウモリは、実はとても愛嬌のある顔立ちをしているものも少なくありません。キクガシラコウモリも一見ファニーな顔をしていますが、何故か見れば見るほど憎めない存在でもあります。そんなキクガシラコウモリ、実は恐ろしい病気の感染源でもあることがわかりました。
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キクガシラコウモリの生態
キクガシラコウモリの特徴
キクガシラコウモリは翼手目キクガシラコウモリ科に属するコウモリの仲間です。頭胴長5.3~8.2cm、前腕長5.2~6.5cm、尾長2.8~4.5cm、体重17~35gの大きさで体毛は比較的柔らかくて茶褐色をしています。
顔の中央にあるひだ状の鼻葉が特異な形をしており、菊の花に似ていることからキクガシラコウモリという和名がつきました。
耳は比較的大きく、耳介の先は尖り、尾膜や翼は幅広い形状をしています。
キクガシラコウモリの生態
世界ではアジア中南部、アフリカ地中海沿岸、ヨーロッパなどに幅広く分布し、日本においても北海道~九州まで広く分布しています。
昼間は海食洞、洞穴、トンネル、家屋などに単独で、もしくは数頭~数百頭の群で休息します。夜間になると単独で飛翔し、森林や森林に隣接した小丘陵、河川、草原、平地などの採餌場所に行き、低空をゆっくりと飛行しながらガ、ゲンゴロウ、コガネムシなどの甲虫やセミ、アブなど大きい昆虫を捕食します。体が比較的大きいため多くの昆虫を必要としますが、開発などによる森林減少のため生活環境の水準が低下しています。
交尾は秋に行われますが、精子は雌の生殖道内に貯蔵され、冬眠から目覚めたあとに授精します。初夏になると雌は集団で出産します。年齢が上がるごとに妊娠率が高くなり、すべての雌が妊娠をするのは満4歳以上であることが報告されています。これはキクガシラコウモリの雌に晩熟傾向が強いことを示しています。冬が近くなると脂肪を蓄えて冬眠に備えます。
洞穴性であるキクガシラコウモリは冬眠や出産のための洞穴を必要としますが、洞穴の減少や採餌場所の環境悪化により個体群の維持が困難になっています。
キクガシラコウモリの鼻の謎
キクガシラコウモリの鼻はどうしてこのような形をしているのでしょうか。オオコウモリ以外のコウモリは超音波を発し、周囲の状況を把握することができます。これをエコロケーションと言いますが、この機能があるおかげで夜行性のコウモリは暗闇でも壁や仲間などにぶつからずに済みますし、エサである昆虫を探し当てることができます。
通常アブラコウモリなどは口から超音波を出しますが、キクガシラコウモリの仲間は鼻の部分から超音波を出します。左右の鼻の穴から二種類の超音波を出して獲物を立体視していると考えられています。
SARSを媒介したキクガシラコウモリ
SARSの感染源と発表されたキクガシラコウモリ
2002年~2003年に中国などで大流行し、世界中を震撼とさせた重症急性気管支症候群(SARS)はハクビシンが感染源とされていました。ところがSARSの病原であるSARSコロナウィルスは特定のハクビシン以外からは検出されませんでした。これはつまり、ハクビシンは自然宿主ではないということを意味し、未知の自然宿主から感染したと考えられます。その後オオコウモリを含む6種のコウモリで調査を行った結果、キクガシラコウモリが自然宿主であるという論文が発表されました。
コウモリ由来の感染症が増加した理由
コウモリ由来の恐ろしい感染症はSARSだけにとどまらず、エボラウィルスや二パウィルスなど多岐に渡ります。これらの感染症の多くは直接ヒトに感染することもありますが、別の宿主を経由してヒトに大量感染します。
近年、こういったコウモリ由来の感染症が特に多く見られます。これは森林伐採や乱開発によりコウモリの居住区が荒らされたため、ヒトと関わりの深い動物(犬、猫、牛、馬など)とコウモリの接触が増加したためだとも言われています。
まとめ
キクガシラコウモリについてまとめてみました。
恐ろしい病原の宿主であるキクガシラコウモリですが、実はその生態を脅かして自らの身を危うくさせているのは私たち人間でもあります。身勝手な環境破壊は天に唾を吐くようなものだということを改めて思い知らされます。